ある日、電車の中

 最近書くことが楽しくてしょうがない。毎日書いて書いて書いて書きまくっている。大概書くときは音楽を聞きながら。電車の中でもなんだかんだノートにかき込んでいて、数日たって読み返してみるとあまりにも字が汚くてよめなかったりする。ところどころ判読できるところがあって、思い出せないこともないのだが、九割は判読不能だ。どちらにしても書いていること自体が楽しくてしょうがない。もうなんか取り憑かれたようになっていて、これはヤバイんじゃないか、とさえ思ってくるレベルである。

 きょうも電車の中で小型のノートになにやら書いていたのだが、あたりがざわめき、そのただならぬ雰囲気に、ふと顔を上げると、目の前にカツラが。いや、あまりにも明らかにカツラと分かるオッサンが。もうカツラとバレバレである、というか、バレバレとかそういった次元ではない。明らかに頭から浮いているのだ。それにずれている。不自然きわまりない。パンチョ伊藤どころの騒ぎではない。じゃあ、どんな騒ぎなの、という疑問はおいておくとして、車内の視線の半分はオッサンのカツラへと向かっていたことだろう。

 もうここまで来ると見てはいけない、というよりは、見なくては失礼、見てください、見ないとソンです、といわれているような気がしてくるくらいのレベルだ。きっと本人もカツラであることを知らせようとしているに違いない。いや、きっとあの人は自分が注目されることが何よりも快感なのだろう、たぶんそうだ、いやいやいや、そうに違いない。注目させて快感を得るための手段としてカツラを浮かせてるのだ。

 というかカツラなのだろうか?という疑問さえ浮かんできてしまうほどあからさまにカツラなのだ。あそこまであからさまなのは、逆に怪しい。いや、あれはきっと髪型の帽子なのだ、と思った人さえいておかしくない。とにかく不自然だ。オッサンに思い切って聞いてみても良かったのだが、一駅だけ乗って降りていってしまったので、聞くチャンスも失われてしまった。というか外は風がちょっと強かったのでカツラがとんでしまわないか心配だった。車内の視線がオッサンのカツラを追っていた。

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