年を感じるとき(実話)

 もう半年も前のことになるでしょうか、家の外に出れば息が白くなり、手がかじかむ、そんな寒い冬の日のことです。なんとなくテレビを見ていました。もう夜中の1時過ぎてました。この時間ですから深夜番組で、お色気だけで見させるような番組です。

 「巨乳合コン」

そんな企画名だったと思います。
 内容はといえば、巨乳好きの男たちが巨乳のおねぇちゃん数人と合コンするというものです。平凡な企画です。ぼくはポテチをほおばりながら、しだいに眠気を感じ始めていました。

 巨乳おねえちゃん3人の紹介と、お約束の胸のアップ映像がおわり、男の参加者がひとりづつ自己紹介をしていってたのですが、その瞬間ぼくは目を疑いました。

 まぎれもなく高校ときの同級生K君がいました。たまに会話する程度の友達で高校卒業してから連絡をとっていない、という友達でした。突然のことにぼくは動転し、ポテチが肺に入り、むせってしまいました。

 Kは高校卒業後、あえて大学名はだしませんが、W大学と並んで称されるK大学に進学したはずです。実際、自己紹介でも大学名こそださないものの大学生であると名乗っていました。

 Kは高校の時とは変わっていました。チャラチャラした服装、肩まで伸びる金髪、両耳にはピアス。どこからどうみてもギャル男になっていました。

 ショックだったのはKがかわってしまったことではありません。

 さて、「巨乳合コン」。フリータイムがおわりいよいよ告白タイムです。しかし、そこはテレビ、普通に告白できるはずもありません。20人くらいいる男の内、告白できるのは5人まででした。巨乳ねえちゃんは3人です。どうやって20人から3人が選ばれるのか。

  選考方法はユニークかつ、視聴者の興味を釘付けにするものでした。

 それは、台の上に立った巨乳のおねえちゃんが胸の谷間にはさんだ変なマシーンから発射されるボールをとったものが告白できるというものでした。

 ぼくはそのアイデアに愕然としながらもテレビ画面を凝視しました。とうぜんボールを巡ってデッドヒートがくりひろげられます。Kもうまくしてボールをとりました。
 
 その戦地に向かう突撃兵のように引き締まった必死な形相。
 
 取ったときの、まるで天下でも取ったかのような顔。
 
 そして発した勝利の雄叫び。
 
 どれも衝撃的でした。
さらに衝撃的なことが続きました。告白はカーテンがかけられた箱の中で行われ、告白がおわるとカーテンが開けられる、というものでした。Kの告白がおわりカーテンが開けられました。 告白は成功。
明らかに成功と言うことが分かりました。なぜなら、
 
巨乳ねえちゃんの胸の谷間に顔をうずめていたからです。
 
「おめでとう」

 そんな周囲の喝采、羨望のまなざしを受けながらKは巨乳おねえちゃんとともに画面から消えていきました。

 そのときのにやけた、勝利に酔った表情は数年前、K大学に受かったとき見せた笑顔よりもずっと屈託のない、心からの笑顔に見えました。

 こうやって人間は年を重ねていくのだな。

 ぼくは時間の残酷さを、そしてなによりも暖かさをかみしめていました。

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